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オトキャビン

設計案/Architectural Concept

 

津波で市街地のほとんどが押し流された宮城県女川町。
復興計画の一環として整備された海岸広場の一画に、居心地の良いプライベートなキャビン(小屋)をつくり、有料で貸し出す計画です。

 

女川町の人々は、巨大な防潮堤や地盤の全面的なかさあげによって海を拒絶するのではなく、むしろ海を常に感じられる町づくりによって災害に柔軟に備える復興方針を掲げました。
「これからも海とともに生きる」ことを選んだ女川は、海と人とのかかわりを五感で身近に感じられる町です。

 

「音の風景」をつくる

オトキャビンは、五感の中でも聴覚に着目し、あえて視覚に頼らず「風景を聴く」ことで海を感じるユニークな提案です。
刻一刻と移り変わる女川の風景を「音」で感じ取りじっくりと味わえる場、さらに「音の風景」づくりに自らも参加できる場を提供します。

 

海と町が織りなす多彩な「音の風景」を楽しみ、つくり出す場。海と町それぞれに向けた大きな開口部で音を取り込む。キャビンを囲むすりばち状の地形は野外劇場となって、新たな「音の風景」を拡散する。柔らかな曲線で構成されたシルエットが、海や山並み、広場のなだらかな地形と呼応して、記憶に残るふるさとの風景をつくりだす。
海の音・町の音・私たちの音

オトキャビンは、2つの大きな開口部からそれぞれ「海の音」・「町の音」を取り込み、増幅します。


チャプチャプ立つ波、ヒューヒュー吹く風、ドーッという漁船のエンジン、カモメやウミネコ、車や歩行者、公園のスケートボード、進む建設作業、ポツポツ降り始める雨、復興とともに賑やかになる町の声…

視覚に頼っていた時には聞こえなかった豊かな「音の風景」が、鮮やかにミックスされ、キャビンの中いっぱいに広がります。

 

さらに、オトキャビンを取り囲む地形は野外劇場となって、「私たちの音」を拡散します。女川の音に新たな声が加わるのです。

 

キャビンの内部はさまざまな女川の「音」で満たされる。まるでヘッドホンをつけたかのように、それまで意識することのなかった「音の風景」が鮮やかに浮かび上がってくる。
平面ダイアグラム。2つの大きな開口部からそれぞれ「海の音」・「町の音」を取り込み、増幅する。外壁は野外劇場の反射板となって、「私たちの音」を拡散する。
極端に限られた予算に対応するため、壁・屋根は切込みの入った構造用合板を縦横に差し込むだけの簡便な構造に。材料は工場カット、現場組立はボランティアも参加して手作業で可能。屋根も軽量なため、手作業で地組み、吊上げが可能。
夕景。ガラスブロックから漏れる光が星空と呼応して、リズミカルな遊び心を演出する。野外劇場を取り囲むベンチ自体に照明機能を持たせることで、外構照明のコストを抑えるとともに地形に対する操作を最小限とし、既存の公園全体の風景に違和感なくおさまるシンプルな外構とした。
出入口の棚には構造体をそのまま利用。最下段は室内側にも抜けている。軽量なコの字型家具は取り外し式で、海を望む屋外スペースに持ち出してくつろぐことも。
家具には本体架構で使用した構造用合板の端材を有効活用。ベンチシート中央のコの字部分は取り外して縦横自在に使用でき、晴れた日には屋外にも持ち出せる。 水道工事を行わない条件のため、キャンピングカーでも使われるタンク式のミニシンクを採用。ポリタンク2つで完結し、外部配管は不要。キャビンの中でコーヒーや軽食を楽しめる。

 



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